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神戸地方裁判所 昭和55年(手ワ)328号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金八〇〇万円及びこれに対する昭和五五年一〇月二八日から支払い済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項と同旨

2  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙手形目録記載のとおりの連続した裏書記載のある約束手形一通(以下、「本件手形」という。)を所持している。

2  被告は、拒絶証書作成義務を免除して、本件手形を裏書した。

3  原告は、本件手形を満期の日に支払場所で支払のため呈示したが、支払がなかつた。

4  仮に、本件手形の裏書が連続していないとしても、原告は、本件手形について次のとおりの実質関係を有しているから、裏書の連続の欠缺部分は架橋されており、手形上の権利を有する。

(一) 訴外富士産商株式会社(以下、「富士産商」という。)は、被告に頼まれて昭和五二年初めころから同年五月ころまでの間に、訴外正垣宏(以下、「正垣」という。)に対し、合計八三六万円の融資をしていたが、昭和五四年ころ、富士産商の代表取締役である井山孝昭(以下、「井山」という。)と正垣及び被告が右貸金について話し合つた結果、右貸金債権の元利合計額を一〇〇〇万円と確定し、本件手形の受取人である正垣が第一裏書(被裏書人白地)を、被告が保証の目的で第二裏書(隠れた保証、被裏書人白地)をしたうえ、これを富士産商に交付した。すなわち、第一裏書人である正垣と第二裏書人である被告との間の実質関係は将来の求償権であり、被告と富士産商との間の実質関係は保証契約に基づく履行請求権である。

(二) 原告は、昭和五五年九月ころ、原告が富士産商に対して有していた約一二〇〇万円の貸金債権の一部弁済を受けるために富士産商から本件手形の裏書譲渡を受けた(第四裏書、なお、第三裏書は抹消されている。)。

(三) その後、原告は、本件手形を取立委任の目的で第六裏書人である大阪相互銀行光善寺支店に裏書(隠れた取立委任裏書、被裏書人白地)をした(第五裏書、なお、受取証欄の記載は抹消されている。)。

(四) 第一裏書及び第二裏書の被裏書人の記載及びその抹消並びに第五裏書の被裏書人の記載は、本訴を提起するに当たり、原告代理人事務所の事務員が誤つてしたものである。

5  よつて、原告は、被告に対し、本件手形金八〇〇万円及びこれに対する満期の日である昭和五五年一〇月二八日から支払済みに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実は否認する。

本件手形の裏書中、正垣名義の第一裏書及び被告名義の第二裏書については、その各被裏書人の記載が抹消されたことにより右の第一及び第二裏書全部が抹消されたことになるから、本件手形の裏書記載は連続を欠くものというべきである(東京高裁昭和四七年九月五日判決、判例時報六七七号九八頁、最高裁昭和四九年二月二八日第一小法廷判決、民集二八巻一号一二一頁、判例時報七三四号九五頁参照)。

2  請求原因2項の事実は否認する。

3  請求原因3項の事実は知らない。

4  請求原因4項冒頭の主張は争う。同(一)のうち正垣が富士産商に対して債務を負担していたこと及び右債務の支払いのために本件手形が富士産商に譲渡されたことは認めるが、右債務の額を含むその余の事実は否認する。同(二)の事実は否認する。同(四)の事実は知らない。

三  抗弁

1  仮に、被告が本件手形を裏書したとしても、その被裏書人の記載の抹消により裏書全部が抹消されたことになるから、被告の裏書人としての責任は消滅した。

2  仮に、被告に本件手形についての手形上の責任があるとしても、

(一) 正垣が富士産商に対して負担していた債務は七七七万二〇〇〇円であるところ、右債務は、以下に述べるとおり、既に消滅している。

(1) 被告は、昭和五四年三月ころ、正垣に代り、右債務のうちの二五〇万円の弁済に代えて京都カントリークラブの会員権を富士産商に譲渡した。

(2) 被告は、昭和五四年六月二一日ころ、正垣宏に代り、右債務の一部弁済として一八八万円を富士産商に支払つた。

(3) 被告は、富士産商に対し、(イ)昭和五〇年九月二三日に一四三万円を、(ロ)昭和五二年四月二八日に八〇万円を、(ハ)昭和五二年九月二七日に一〇〇万円を、(ニ)昭和五三年三月一〇日に一九〇万円をそれぞれ貸し付け、うち(ロ)の貸金については五〇万円の返済を受けたので、被告は、富士産商に対し、合計四六三万円の貸金債権を有していた。

そこで、被告は、富士産商に対し、昭和五四年六月末ころ、右債務をもつて富士産商の正垣にする債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

(二) 原告は、右のとおり被告、富士産商間の原因関係が消滅していることを知りながら本件手形を取得した悪意の取得者である。

(三) 仮に、原告が原因関係の消滅を知らなかつたとしても、本件手形の実質上の所有者は富士産商であつて、原告は独立の経済的利益を有しない、いわばロボツトであるから、被告は富士産商に対して有していた前記抗弁を原告に対しても対抗できる。

(四) 仮に、抹消された裏書が実質関係によつて架橋されるとしても、その債権の移転には指名債権譲渡の効力しかないから、被告は、原告に対し、原告の善意悪意にかかわらず富士産商に対して有していたすべての抗弁を対抗することができる。

そして、原告は、昭和五八年四月二六日の本件口頭弁論期日において、改めて前記(一)の(3)の債権をもつて、富士産商の正垣に対する債権とその対等額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

2  抗弁2の(一)ないし(三)の事実は否認する。同(四)の前段の主張は争う。

第三  証拠(省略)

手形目録

金額    八〇〇万円

満期    昭和五五年一〇月二八日

支払地   神戸市

支払場所  尼崎浪速信用金庫神戸支店

振出地   神戸市

振出日   昭和五五年四月一九日

振出人   有限会社大神商事

受取人   正垣宏

第一裏書人 正垣宏

同被裏書人 正垣宏(抹消)

第二裏書人 被告

同被裏書人 被告(抹消)

第三裏書人 亜細亜同志会(抹消)

同被裏書人 白地

第四裏書人 富士産商株式会社

同被裏書人 白地

受取証欄  亜細亜同志会(抹消)

第五裏書人 原告

同被裏書人 原告

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